点線の用語は、カーソルを合わせるかタップすると意味が読めます。
声を出していないのに、画面には言葉が出てくる。
「えっ、AIが頭の中を読んでいるの?」
ちょっと身構えますよね。秘密や思い出まで見られるのかと、心配になるかもしれません。
でも、2023年に報告されたこの研究が手がかりにしたのは、参加者が話そうとするときの、脳の活動です。1
何でも読む装置というより、伝えたい言葉を表す手助けとして見ると、成果がぐっと分かりやすくなります。
「話したい」が、画面に届くまで
オレンジの人が伝えたいことを、青い人と一緒に受け止める場面から見てみましょう。

オレンジの人「声にしにくくても、伝える方法は増やせる?」
この研究が目指したのは、発話が難しい人の言葉を文字にすること。手がかりは、話そうとするときの脳の活動です。

青い人「そのときの脳の活動を、電極で記録するんだ。」
2023年の研究では、ALSの参加者1人に埋め込んだ電極を使いました。頭の外から何でも読み取る方式ではありません。

オレンジの人「この信号は、どんな言葉に対応するんだろう?」
AIは練習で信号と言葉の対応を学びます。その手がかりから、話そうとした言葉を推定して文字にします。

青い人「推定だから、読み違いも確かめよう。」
言葉を届ける道が増える一方、誤りもあります。自由な思考を丸ごと読む技術とは、調べていることが違うんですね。
人物・画面はAI生成の説明用イラストで、実際の参加者や装置の再現ではありません。電極や配線は省略しています。2023年の研究は、脳に埋め込んだ電極を使ったALSの参加者1人の発話支援です。 [1] [2]
声が出なくても、「話そうとする」信号は使える?
漫画では電極や配線を省いています。実際には、どんな信号を、どこから記録したのでしょう。
この研究に参加したのは、ALSという病気で発話が難しくなった1人です。
研究者は、脳に埋め込んだ電極で、発話の動きに関係する活動を記録しました。言葉の推定に使ったのは、運動前野という、動きの準備などに関わる領域の信号です。3
声だけを聞くのではなく、声にする動きに関わる信号を手がかりにできないか。そこに注目したわけですね。
こうして脳と装置をつなぐ仕組みを、BCIと呼びます。名前は難しそうですが、まずは「脳の活動を、装置とのやり取りに使う仕組み」と考えれば大丈夫です。
その信号から、どうやって言葉にするの?
脳の信号に「こんにちは」という字幕が付いているわけではありません。
そこでAIが、練習で得た信号と言葉の対応を学びます。あとから入ってきた信号を見て、「この言葉を話そうとしていそうだ」と推定するのです。1
著者の公開コードには、脳の信号を読み解く部分と、言葉の並びを扱う「言語モデル」が含まれています。2
私たちも聞き取りにくかった言葉を、前後の文脈から考えることがありますよね。仕組みが同じという意味ではありませんが、言葉の並びも手がかりにする、という点を想像すると分かりやすくなります。
じゃあ、出てきた文字は全部正しい?
そこには、まだ読み違いがあります。
英語の12万5千語を候補にした評価では、発声を伴って話そうとした場合の単語誤り率は23.8%。声を出さず、口を動かして話そうとした場合は**24.7%**でした。3
声を出す条件でも、AIが手がかりにしたのは脳の信号です。参加者は多少の発声はできましたが、相手に伝わる明瞭な言葉を話すのは難しい状態でした。3
単語誤り率は、正解の文と比べ、言葉の置き換えや抜け、余分な挿入がどれくらいあったかを見る数字です。
「心を76.2%読めた」という意味ではありません。文が丸ごと正しかった割合でもないんですね。
AIが出した文字は、本人の言葉を表そうとした推定結果。だから、間違いがどのくらいあるかも大事になります。
誰でも、すぐ使えるようになる?
この結果は、参加者1人と、決まった装置・練習の条件で得られたものです。1
人が変わっても使えるか。長く使い続けられるか。日常の会話で、どれくらい役に立つか。
そうした点は、また確かめる必要があります。今回の方式は埋め込み電極を使うので、市販のヘッドホンを着けるだけ、という技術でもありません。
勝手に秘密を読まれる、ということ?
少なくとも、この研究はそういう実験ではありません。
参加者が話そうとするときの活動から、言葉を推定するものです。記憶も感情も含めて、考えていることをすべて読み出したわけではありません。1
「脳を読む」という見出しを見たら、どんな場面の、どんな信号を読んだのか。そこを確かめると、SFの読心術との距離が見えてきます。