点線の用語は、カーソルを合わせるかタップすると意味が読めます。
「テレポーテーション」と聞いたら、想像しますよね。
ここにいた人がふっと消えて、遠い場所に現れる。電車も飛行機も要らない、あの瞬間移動です。
でも量子テレポーテーションで移すのは、人でも荷物でもありません。
量子の「状態」です。 1
しかも、名前だけがSFなのではありません。2017年には、地上から人工衛星へ、最大約1,400kmの量子テレポーテーションが報告されています。3
「状態だけを送るって、どういうこと?」
まずは、そこから見てみましょう。
まずは、4コマで見てみよう
オレンジの目印が送る人。青い目印が受け取る人です。
移したいのは、小さな粒子が持つ「状態」。漫画では、それを星の模様にたとえてみます。人や玉そのものが、遠くへ飛んでいく話ではありません。

送る人「このペアを、一つずつ持っておこう」
特別な関係にある二つの粒子を用意して、離れた場所に分けて持ちます。

送る人「この二つを、一緒に測るね」
送りたい状態を持つ粒子を追加。決まった操作をしてから、二つを共同測定します。元の状態は、そのまま残りません。

送る人「測った結果を送るね!」
伝えるのは、どの操作をすればよいかを決めるための結果。普通の通信が届くのを待ちます。

受け取る人「この結果なら、こう操作すればいいんだね」
理想的な手順では、手元の粒子が、最初に送りたかった状態になります。
玉と星は、粒子と量子状態を見分けるためのたとえです。実際に模様を読んで送る仕組みではありません。スマホは普通の通信のたとえ、人物や装置はAI生成のイメージです。 [1] [2]
ここで大事なのは、準備したペアと、普通の連絡。その両方を使うところです。
測っただけで終わりでもなければ、説明書をメールで送るだけでもない。二つの仕組みがそろって、状態を移せるんですね。1
1コマ目の「特別なペア」が、量子もつれ
聞き慣れない言葉ですが、漫画の1コマ目に戻ってみてください。二人が一つずつ持つために用意したペア。ここで使うのが、量子もつれという関係です。
二つをまとめて一つの量子状態として扱う必要があり、測った結果に特別な結びつきが現れます。「ただ同じ物を二個用意した」というだけでは、この役目を果たせません。2
ただし、見えない電話線があるわけでもありません。だから3コマ目で、別に連絡をしているんです。
星をコピーして送っている、と思っていい?
漫画ではそう見えますが、ここだけ少し補足です。
量子状態は、何を測るとどんな結果がどれくらい出そうかを表すもの。目で見て読み取れる星や文字とは違います。
この手順では、送りたい状態の中身を全部読み取って、説明書にする必要がありません。中身を知らなくても、状態を移せるところが面白いのです。1
そして、元の状態は測定の過程で変わります。元を残したまま、同じ未知の量子状態を二つに増やすことはできません。2
スマホで何を送っているの?
漫画のスマホは、普通の通信を表しています。基本手順で知らせるのは、0と1を二つ並べた2ビットです。2
受け取る側は、その結果から、自分の粒子にどんな操作をすればよいかを決めます。
たった2ビットで足りるのは、それだけで状態の設計図を送っているからではありません。1コマ目で分けて持った、特別なペアも使っているからなんですね。
え、じゃあ光より速く通信できる?
できません。 3コマ目の連絡が届くまで、受け取る側は必要な操作を決められません。この普通の通信は、光速を超えられないからです。2
もつれだけで、好きなメッセージを相手へ即座に届けることもできません。「テレポート」という名前でも、移動時間ゼロの通信ではないのです。
本当に衛星まで、送れたの?
2017年のRenらの研究では、中国の量子科学衛星「墨子号(Micius)」を使いました。地上から衛星へ移したのは、単一光子の偏光の量子状態です。3
光子は光のひと粒。偏光は、光の振動の向きなどに関わる性質です。
実験した地上―衛星間のリンクは、最大約1,400km。ただし、これは衛星の高さが1,400kmという意味ではありません。地上局と動く衛星を結ぶ、通信経路の距離です。3
遠くへ光子を届けるときには、途中で光が失われることが壁になります。宇宙を経由する方法は、経路の多くを真空中にできる点が期待されています。3
1,400kmの次が14.4km? 距離が短くなってない?
数字だけなら、そう見えますよね。でも、次の研究は別の課題に挑んでいます。
2024年のKuceraらの研究では、ドイツの街に敷設された、長さ14.4kmの光ファイバーを使いました。イオンの量子メモリに用意した量子状態を、遠くの光子へ移す実験です。4
イオンは電気を帯びた原子などのこと。量子メモリは、量子状態を保っておく仕組みです。
この実験の面白さは、街の中にある回線で、量子の機器をつなげるかという点です。距離の記録だけを競っているわけではありません。
使ったのは、普段のデータ通信に使っていない線、いわゆるダークファイバー。光の状態の変動を補う仕組みも組み合わせています。「いつものネット回線にそのままつなげば完成」という段階ではないんですね。4
では、もう自由に使える量子インターネット?
ここで紹介した二つの研究は、特定の測定結果や検出された事象を選んで、転送の成り立ちを確かめた実験です。4コマで見た理想的な手順を、毎回確実に動く通信サービスとして完成させたという意味ではありません。3 4
それでも、離れた量子コンピューターや量子メモリをつなぐための、一つの部品候補にはなります。3 4
今のネットで写真や文章をやり取りするように、量子の機器どうしで量子状態をやり取りしたい。そのために、状態を渡す方法や、途中の損失にどう対応するかを研究しているわけです。
人間の瞬間移動には、つながらないの?
今回の成果が示したのは、選んだ量子状態の転送です。体を丸ごと運んだり、向こう側で人を組み立てたりした実験ではありません。
「粒子の状態を移せるなら、そのうち人も」と考えたくなりますが、扱っている対象も、必要な仕組みも大きく違います。
SFの夢との距離は、二段に分けると見やすくなります。
- 量子情報の転送:★★★☆☆。衛星や都市回線で実験がある。
- 人や物そのものの瞬間移動:ここで扱う研究では未実証。
星は、観測所が量子情報の転送について付けた目安です。実現確率や、人間を転送できるまでの残り年数を表してはいません。
観測所の「ほぇ〜ポイント」
似たSFの名前でも、ワームホールの実験が調べていたことはまた違います。名前と研究の中身を並べると、科学のニュースはもっと面白く読めます。