点線の用語は、カーソルを合わせるかタップすると意味が読めます。
「ワームホールを量子コンピューターで作った」
そんな話を聞いたら、想像しますよね。研究室の壁に穴が開いて、その向こうに知らない星空が見える。ちょっと手を伸ばせば、別の銀河に届くのかも、と。
でも、2022年のこの実験で動いたのは、宇宙船でも人間でもありません。
量子コンピューターの中で伝わる、情報です。 1
「じゃあ、どうしてワームホールって呼ぶの?」
そこが、この研究の面白いところです。
そもそもワームホールって、何?
遠い場所へ行くとき、ふつうは、そのあいだの道を進みますよね。
もし離れた二つの場所を、短い橋で直接つなげたら? いつもの道を通るより、ずっと近くなるかもしれません。
ワームホールは、そんなふうに離れた時空をつなぐ橋として考えられています。「時空」は、場所と時間をひとまとめにした言葉です。1

オレンジの人「この端から向こうの端まで、近道できないかな?」
紙の上に、離れた二つの場所を描いてみます。紙の上を進むなら、その間をずっとたどることになります。

青い人「ここをつなぐ通路があったら、近そう!」
紙を曲げると、離れた点を近づけて想像できます。ワームホールの「近道」を考えるたとえで、宇宙に通路を作る手順ではありません。

オレンジの人「じゃあ研究室では、何を調べたの?」
2022年の研究では、量子コンピューターで情報の伝わり方を測りました。部屋に人が通れる穴が開いたわけではありません。

青い人「その動きが、ワームホールの話につながるの?」
研究チームは、理論で予想される特徴と合う部分を報告しました。どこまでワームホールとして解釈できるかは、議論になっています。
人物・紙・装置は、説明のためのAI生成イラストです。紙は時空の実際の形を表すものではなく、画面やチップは実験装置の再現ではありません。実験の説明は2022年の発表、解釈の議論は2023年の資料に基づきます。 [1] [3] [5] [6]
紙の二つの点が近づいても、それだけでは通路はできません。離れた場所を結ぶ橋が本当にあるか、人が通れるか。 そこは、たとえの先にある研究の問題です。
で、コンピューターでは何をしたの?
漫画の3コマ目を、もう少し詳しく見てみましょう。
Googleの量子プロセッサー「Sycamore」を使い、同じ装置の中に、小さな実験対象を二つ用意しました。量子の性質を使って調べるこうした対象を、ここでは「量子系」と呼びます。
二つの量子系に操作を加えると、情報はどう伝わるのか。その動きを測ったところ、ワームホールの理論で予想される特徴と合う部分があった、という報告です。1 3
つまり、「コンピューターの画面に宇宙の穴を描きました」という話でもありません。実際の量子系を動かして、測っています。
小さな装置の話が、なぜ宇宙の話になるの?
ここで、ちょっと不思議な考え方が出てきます。
同じ物理を、まったく違う二つの言葉で説明できるかもしれない。
片方は、量子のふるまいで書いた説明。もう片方は、重力や時空で書いた説明。この対応を研究する考え方が「ホログラフィック双対性」です。3
たとえば、同じ場所を「路線図」と「地図」で見ると、見た目は違っても、駅のつながりを照らし合わせられますよね。あくまで説明のたとえですが、二つの記述を行き来する感覚はそれに近いものです。
もし量子側で測ったことが、時空側の理解にも役立つなら。手元の装置が、宇宙のしくみを考える手がかりになるわけです。
じゃあ、本当にワームホールと同じ動きなの?
ここは、研究者のあいだでも議論があります。
今回使ったのは、扱いやすいように簡単にした小さなモデルです。研究チームも、それが重力側のどんなモデルと厳密に対応するかは分かっていないと説明しています。3
2023年には、「その特徴だけで、重力とのつながりを言ってよいのか」という批判が出ました。元のチームは、「実際に行った手順と、情報が伝わる時点を見れば、解釈を支える性質がある」と応答しています。5 6
4コマ目で二人が見比べているのも、この部分です。測れた動きは何か。その動きを、どう説明するか。
この二つを分けて読むと、議論の場所が見えてきます。
これで人間も通れるようになる?
今回の実験で、人や物が通れる時空の穴が開いたわけではありません。1
理論にも条件があります。関連するGaoらの研究は、特定の時空と、両側を結ぶ相互作用を考えたものです。好きな場所に入口を置ける装置の設計図ではなく、そのモデルでは原因と結果の順序を破ることもできないとされています。4
ですから、この成果だけをもとに「あと何年で星へ行ける」と予定を立てることはできません。
観測所の「ほぇ〜ポイント」
空間の近道に興味が湧いたら、次はワープの話へ。こちらは「橋を架ける」のではなく、船のまわりの空間を変える発想です。