未来技術観測所FUTURE TECHNOLOGY OBSERVATORY
OBSERVATION NOTE / 時間と空間

高い場所では、時間が少し速い? タイムトラベルと時計の話

どこにいても、一秒は同じ一秒。そう思いますよね。でも、精密な時計で比べると、高さによって進み方に差が現れるんです。

30 SECONDS / まず、ここだけ

同じ一秒のはずなのに、時計の進み方に差が出る。それは実際に測れる。

  • 運動や重力の条件によって、時計が刻む時間には差が生まれる。
  • 2022年には、ミリメートル規模の高さの違いによる差も測定された。
  • 過去へ戻る装置ではないけれど、時間は一律ではないと分かる。
この記事の目次
  1. まずは、二人と時計の4コマから
  2. 一秒って、どこでも同じじゃないの?
  3. 高さが、ほんの少し違うだけでも?
  4. そんな小さな差、ふだんは関係ない?
  5. じゃあ、高いビルに住めば未来へ行ける?
  6. 過去へ戻る話とは、何が違う?
  7. 観測所の「ほぇ〜ポイント」
  8. 今回の観測結果
  9. 原論文・出典

「高い場所にいるほうが、時計は少し速く進みます」

そう言われたら、時計の故障を疑いたくなりませんか。

でも、ここで紹介するのは、時計の品質の話ではありません。重力の条件によって、刻まれる時間そのものに差が出るという話です。1

しかも2022年には、ミリメートル規模の高さの違いでも、その差が測られました。

まずは、二人と時計の4コマから

オレンジと青の目印をつけた二人に、登場してもらいましょう。

上の階と下の階。一秒に違いはある?
二人が同じ形の時計を持ち、首をかしげて比べている。頭の周りに疑問符。
1 / 同じ時計なら、同じだよね?

オレンジの人「置く場所を変えても、一秒は一秒でしょ?」

ふつうは、そう思いますよね。二つの時計を、高い場所と低い場所で比べる場面を想像してみましょう。

オレンジの人は高い場所、青い人は低い場所で、それぞれ時計を持っている。
2 / 高い場所と、低い場所へ

青い人「じゃあ、上と下に分かれてみよう!」

ここでは地表近くで、それぞれの高さにとどまる時計を考えます。高い側のほうが、ごくわずかに速く進みます。

二人が時計を比較する装置を見て、身振りと周囲の放射線で驚きを表している。
3 / 精密に比べると、差がある

オレンジの人「えっ、故障じゃなくて、時間の進み方が違うの?」

ふつうの時計を眺めて気づくような差ではありません。それでも、精密な原子時計の研究で確かめられています。

二人が地図のピンを表示したスマホを見る。周囲のキラキラと小さな衛星が、GPSとのつながりを示す。
4 / 実は、スマホにも関係する

青い人「この不思議、地図で場所を調べるときにも関係あるんだ!」

GPSでは、衛星と地上の時計の違いを補正します。高さによる効果に加えて、衛星の速い運動による効果も計算に入れます。

人物・建物・装置は、考え方をつかむためのAI生成イラストです。時計の針は測定値を表しません。ここで紹介する2022年の実験は、建物の上下に人を置いた実験ではなく、一つの原子試料の中の高さの違いを調べたものです。 [1] [2] [3]

一秒って、どこでも同じじゃないの?

ふだんの生活では、そう考えて困らないですよね。

ところが相対性理論では、運動や重力の条件によって、時計の進み方が変わります。離れた二つの時計を比べたとき、同じだけ時間が経つとは限らないんです。3

自分の時計が後ろへ回るという意味ではありません。どちらも前へ進んでいるのに、比べると進んだ量が違う、ということです。

高い場所にいる本人が、「今日は一秒が短く感じる」と気づくわけでもありません。手元では、いつもどおりの一秒。別の場所の時計と比べて初めて、違いが分かるんですね。1 3

高さが、ほんの少し違うだけでも?

漫画では建物の上と下でした。では、本当の研究ではどうしたのでしょう。

2022年のJILAの研究では、ストロンチウムという元素の原子を使って、この小さな違いを調べました。原子時計は、原子の性質を使って、時間をとても正確に測る時計です。1 2

一つの原子試料の中で、高い側と低い側を比べています。ミリメートル規模の高さの差でも、進み方の違いを読み取ったという報告です。1 2

地表近くでは、高い側のほうが、ごくわずかに速く進みます。

高い側と低い側の時間はともに前へ進むが、高い側はわずかに速い。矢印の差は誇張している。
重力による時間差の概念図。実験装置の配置図ではありません。矢印の長さの差は大幅に誇張し、測定値は表していません。 図の根拠

図の矢印の差は、分かりやすく大きく描いています。実際にこんなに目立つ差が付くわけではありません。

それにしても、遠い宇宙に時計を持っていかなくても、こんな小さな高さの違いを調べられる。測る技術の精密さにも驚きますよね。

そんな小さな差、ふだんは関係ない?

実は、位置を調べるGPSでは、時計の正確さがとても大事です。

NASAの解説によると、GPS衛星の時計は、衛星の運動と重力の条件による影響を受けます。その違いを計算に入れて補正しています。3

「時間の進み方が違う」と聞くと遠い理論に感じますが、地図で自分の場所を知る仕組みにも関わっているんですね。

じゃあ、高いビルに住めば未来へ行ける?

今回の話は、時計で読み取る、ごく小さな時間差です。好きな未来の年を選んで、そこへ飛べる装置ではありません。

それでも、「みんなに同じ量の時間が流れる」という見方を考え直す手がかりになります。

相対論には、高速で旅をする人と、待っている人で経過時間に差がつくという発想もあります。ただし、それを自由に使える旅行サービスがある、という意味ではありません。3

過去へ戻る話とは、何が違う?

時計が前へ進む速さに差があることと、時計を逆向きに進めることは違います。

たとえば二人が別々の速さで歩いても、どちらも前へ進んでいるなら、一人が後ろへ歩いたことにはなりませんよね。時間の差と逆向きを区別するための、簡単なたとえです。

今回測ったのは、進み方の差。過去へ人を送った実験ではありません。 2

SFの「百年後へ行く」と「昨日をやり直す」は、同じタイムトラベルの名前でも、分けて考えたい話なんです。

観測所の「ほぇ〜ポイント」

時間の不思議は、遠い未来だけにあるわけじゃない。タイムマシンが完成するのを待たなくても、時計を精密に比べると、いつもの一秒の見え方が変わります。しかも、その違いはGPSの計算にも関係している。SFのような話が、すでに身近な技術とつながっているんですね。

時間だけでなく、空間にも近道はあるのでしょうか。ワームホールの話でも、物語の夢と実験の中身を見ていきます。

OBSERVATION / 今日分かったこと

今回の観測結果

時間差を測定

対象:重力による時間の進み方の差

時計の微小な差を測った研究です。過去への移動や、好きな年を選ぶ機械を示したものではありません。

観測所の編集上の整理です。実現確率や完成予定年を示す指標ではありません。
SOURCES / 確かめる

原論文・出典

気になった研究は、ここからたどれます。

いつの、どんな研究?NASAの相対論入門と、JILA・NISTが2022年に紹介した重力による時計の進み方の測定を扱います。タイムマシン理論の総説ではありません。
  1. NIST|JILA Atomic Clocks Measure Einstein’s General Relativity at the Millimeter Scale

    2022年2月16日。研究機関の解説本文を確認。ストロンチウムの原子試料での高さによる差を参照。

  2. Bothwell et al.|Resolving the gravitational redshift across a millimetre-scale atomic sample

    Nature、2022年。NIST公開PDFの要旨・冒頭を確認。同じ原子試料の中の周波数勾配を測定した研究。

  3. NASA Space Place|Is Time Travel Possible?

    NASAの入門解説本文を確認。運動・重力による時間差と、GPSでの補正を参照。

更新記録

— 顔のないキャラクターの4コマを追加。同日、出典を再照合し、本人の感じる一秒と離れた時計の比較の違いを補足。

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