未来技術観測所FUTURE TECHNOLOGY OBSERVATORY
OBSERVATION NOTE / 宇宙

火星で息をする空気、どうするの? 現地で酸素を作ってみた話

火星に家ができたとして、空気は全部地球から運ぶ? 実は探査車が、火星の大気を材料に酸素を作る実験を行いました。

30 SECONDS / まず、ここだけ

火星の空気を材料に、酸素を作れた。現地調達への小さな一歩。

  • 探査車に積んだMOXIEが、二酸化炭素から酸素を取り出した。
  • 2021〜2023年の16回の実験で、合計122グラムを製造。
  • 次は、もっと大きく作り、蓄える仕組みを考える段階。
この記事の目次
  1. 火星の空気は、全部持っていく?
  2. 火星の空気を、そのまま使うの?
  3. もう火星で試しているの?
  4. 酸素って、人が吸うためだけじゃないの?
  5. では、あとは大きくするだけ?
  6. これで、火星に住めるようになった?
  7. 観測所の「ほぇ〜ポイント」
  8. 今回の観測結果
  9. 原論文・出典

火星の家で朝ごはんを食べる。窓の外は、赤い大地。

ちょっと憧れますよね。でも、暮らすとなると、すぐ気になることがあります。

息をする空気は、どこから持ってくるの?

地球から運ぶだけでなく、現地で作れたら助かりそうです。そこで実際に試されたのが、MOXIEという小さな装置でした。1

火星の空気は、全部持っていく?

二人が地上で、未来の火星生活に必要なものを相談しています。まず気になるのは、息をするための酸素です。

酸素を現地で作るには
地上の相談室で、二人が酸素の容器と赤い惑星の絵を見て考えている。
1 / 空気も、荷物にする?

オレンジの人「暮らす分を、全部地球から運ぶの?」

家や食べ物だけでなく、息をするための酸素も必要です。現地の材料から作れたら、運ぶものを減らせるかもしれません。

二人が、小さな箱を載せた探査車の絵を指して話し合う。
2 / 小さな装置を、探査車に

青い人「火星で酸素を作れるか、装置を運んで試したんだ。」

MOXIEは、NASAの探査車に積まれた実験装置。火星の大気にある二酸化炭素から、酸素を取り出しました。

赤い地面の上に無人の探査車がいる。人はおらず、周囲に大気を表す線がある。
3 / 火星で、本当に作れた

オレンジの人「地球の実験室を出ても、働いたんだね!」

2021〜2023年の16回の実験で、合計122グラムの酸素を製造。火星の環境で確かめた、現地調達への一歩です。

二人が地上の相談室で、ロケットと貯蔵容器の記号のある資料を見ている。
4 / もっと作る。そして、蓄える

青い人「息をする分だけでなく、帰りのロケットにも関係するんだ。」

酸素はロケットの酸化剤にも使えます。必要な量を製造し、蓄える設備は、次に考える課題です。

人物・探査車・装置はAI生成の説明用イラストで、実物や火星基地の再現ではありません。二人は計画を考える案内役です。16回・合計122グラムは、NASAが2023年にまとめた2021〜2023年の実験結果です。 [1]

火星の空気を、そのまま使うの?

2コマ目の探査車には、何を材料に酸素を作る装置が載っていたのでしょう。

そのまま吸う、という話ではありません。

MOXIEが材料にしたのは、火星の大気に含まれる二酸化炭素です。記号で書くと、CO₂。炭素1個と酸素2個からできています。

この中から、酸素を取り出せないか。装置の中で電気化学的な反応を起こし、それを試しました。1

火星の大気を、完成した飲み物ではなく、加工する前の材料として見るような発想ですね。

もう火星で試しているの?

はい。MOXIEは、NASAの探査車パーサヴィアランスに積まれ、火星で実験しました。

NASAが2023年にまとめた結果では、16回の実験で作った酸素は、合計122グラムです。1

最後の実験は2023年8月。MOXIEの酸素製造実験は終了していて、今も作り続けているという意味ではありません。1

火星の二酸化炭素を取り込み、MOXIEで分解して酸素を得る。16回の実験の合計は122グラム。
酸素を作る流れを簡略化。ほかの生成物や処理工程は省略しています。122グラムは1回分や1時間分ではなく、全実験の合計です。 図の根拠

122グラムと聞くと、小さく感じるかもしれません。

でも、ここで確かめたかったのは、「大勢が暮らす分を作れたか」よりも、火星の環境で、現地の材料から本当に酸素を作れるかということでした。

酸素って、人が吸うためだけじゃないの?

NASAが挙げる用途には、帰りのロケットもあります。1

ロケットには、燃料と反応する「酸化剤」も必要です。酸素はその役割に使えます。

つまり、火星で酸素を作る話は、現地で暮らすことだけでなく、地球へ帰る準備にもつながるわけです。

「空気の実験かと思ったら、帰りの便にも関係していた」。ここは、ちょっと意外ですよね。

では、あとは大きくするだけ?

大きくすることも、大切な課題です。さらにNASAは、作った酸素を液体にして蓄える仕組みも、次の課題として挙げています。1

料理でも、材料を一度作れることと、毎日必要な分を用意して保存することは違いますよね。

酸素も、作れたらそれで終わりではありません。必要な量を作り、蓄え、使うところまでつなげて考える必要があります。

これで、火星に住めるようになった?

MOXIEが確かめたのは、小型装置で酸素を作ることです。人が暮らす基地全体を動かしたわけではありません。1

それでも、一つの設備について「火星で本当に働いた」と分かった意味はあります。

家を建てるときも、台所の水が出ただけで生活の準備が全部終わるわけではない。でも、水が出るのを確かめることは欠かせない。そんなふうに一つずつ積み上げていく研究なんですね。

観測所の「ほぇ〜ポイント」

未来の宇宙生活は、「現地で調達できる?」から始まる。火星都市の絵では、建物や宇宙船が主役になりがちです。でも、そこに人が住むなら、空気を作って蓄える設備が要る。MOXIEを見ると、遠い惑星への移住が、少しだけ暮らしの話に近づいてきます。

火星までの長い移動は、人工冬眠で過ごせるのでしょうか。こちらにも、SFのベッドの手前にある研究があります。

OBSERVATION / 今日分かったこと

今回の観測結果

火星での実証

対象:小型装置による酸素製造

MOXIEは火星の大気から酸素を作りました。人が暮らす基地や、大規模な製造・貯蔵設備を実証したものではありません。

観測所の編集上の整理です。実現確率や完成予定年を示す指標ではありません。
SOURCES / 確かめる

原論文・出典

気になった研究は、ここからたどれます。

いつの、どんな研究?NASAが2023年9月にまとめたMOXIEの2021〜2023年の成果を紹介します。火星移住計画の最新状況を網羅する記事ではありません。
  1. NASA|NASA’s Oxygen-Generating Experiment MOXIE Completes Mars Mission

    2023年9月6日。研究機関の発表本文を確認。実験回数、合計酸素量、製造原理、大型化・液化貯蔵の課題を参照。

  2. Hoffman et al.|Mars Oxygen ISRU Experiment (MOXIE)—Preparing for human Mars exploration

    Science Advances、2022年。関連原論文の案内。本文未取得。この記事の実験数値は、上のNASAによる2023年の総括に基づく。

更新記録

— 4コマを追加。同日、NASAの総括と数値を再照合し、MOXIEの実験が2023年に終了したことを補足。

← 観測所のトピックに戻る