未来技術観測所FUTURE TECHNOLOGY OBSERVATORY
OBSERVATION NOTE / 超未来エネルギー

核融合で「使った以上」が出た! じゃあ、もう発電できるの?

入れたエネルギーより、多く出てきた。それはすごそう。でも、その数字はどこからどこまでを数えたもの? 入口と出口を見ると、ニュースの意味が分かります。

30 SECONDS / まず、ここだけ

「使った以上」は本当。ただし、何を使った量と比べたかがポイント。

  • 2022年の実験では、燃料を入れた標的に届いたレーザーが2.05 MJ、核融合から出た量が3.15 MJ。
  • レーザーを動かす施設全体で使った電気の量は、この2.05 MJには入っていない。
  • 燃料の実験で越えた壁と、電気を届ける発電所の課題を見てみよう。
この記事の目次
  1. 「使った以上が出た!」どこを数えた数字?
  2. そもそも核融合って、何をくっつけるの?
  3. 数字を、二つだけ見てみよう
  4. え、でもレーザーを動かす電気は?
  5. じゃあ、成果はたいしたことないの?
  6. 発電所にするなら、次は何が必要?
  7. 観測所の「ほぇ〜ポイント」
  8. 今回の観測結果
  9. 原論文・出典

「使った以上のエネルギーが、核融合で出ました」

そんなニュースを聞いたら、期待しますよね。「じゃあ、家の電気も核融合になるの?」と。

2022年12月、米国のNIFという施設で、実際に大きな成果が報告されました。

燃料を入れた「標的」に届いたレーザーより、多くの核融合エネルギーが出たんです。 1 2

標的は、燃料の入ったカプセルと、それを囲む小さな容器をまとめたもの。「ターゲット」とも呼びます。実は、このどこを入口として数えるかが大事なんです。2

「使った以上が出た!」どこを数えた数字?

家の明かりまでつながるのか気になった二人が、実験の入口と出口をたどります。

小さな標的から、施設全体へ
二人が家の照明を指し、疑問符と身振りで未来の電気を想像する。
1 / 家の電気にも使える?

オレンジの人「使った以上に出たなら、この明かりもつけられる?」

核融合のニュースに期待が膨らみます。でも、その数字が何と何を比べたものかを、先に見てみましょう。

二人が研究台の小さな燃料を表すものを観察し、周囲に小さなひらめきの効果。
2 / まず、標的に届いた量と比べる

青い人「標的へ届いたレーザーより、多くのエネルギーが出たんだ。」

2022年の実験では、届いたレーザーが2.05 MJ、核融合の出力が3.15 MJ。これは取り出した電力量ではありません。

二人が研究設備と、その電源コードやコンセントに目を向ける。
3 / 装置を動かす電気は?

オレンジの人「あっ、この装置を動かす分も必要だ!」

レーザーを動かす施設全体には、さらに大きなエネルギーが必要です。その分は、さっきの2.05 MJに入っていません。

二人が工場と歯車の記号の付いた資料を見ながら相談する。
4 / 発電所にするための、次の仕事

青い人「効率よく、何度も続けられるようにするんだね。」

燃料の実験で越えた壁は大きな成果。電気を届けるには、効率や繰り返し運転などの課題も解いていく必要があります。

人物・燃料・装置・工場はAI生成の説明用イラストです。実際のNIFの設備配置や反応の見た目、エネルギー量は表していません。数値は2022年12月5日の実験、施設全体との違いはLLNLの解説に基づきます。 [1] [2] [4]

そもそも核融合って、何をくっつけるの?

漫画の2コマ目で登場した燃料。そこで起きた「核融合」は、何をする反応なのでしょう。

くっつけるのは、軽い原子核どうしです。原子核は、原子の中心にある小さくて重い部分。

この反応で出るエネルギーを利用しよう、というのが核融合の研究です。1

SFでは宇宙船の動力として登場しますが、今回の実験ではレーザーを使い、燃料で核融合の反応を起こしました。

数字を、二つだけ見てみよう

標的に届いたレーザーのエネルギーは、2.05 MJ

核融合で放出されたエネルギーは、3.15 MJでした。1

MJは「メガジュール」と読みます。エネルギーの量の単位です。ここでは、同じ単位どうしで比べている、と分かれば大丈夫。

2.05より3.15のほうが大きい。確かに、出てきた量が上回っています。

標的に届いたレーザー2.05 MJと、核融合が放出した3.15 MJの比較。施設全体で使った電気の量は比較の外にある。
2022年12月5日の実験の公式発表値。標的は燃料カプセルと周囲の容器を含みます。箱の面積は量に比例せず、3.15 MJは発電量ではありません。 図の根拠:[1] [2] [4]

え、でもレーザーを動かす電気は?

そう、そこなんです。

レーザーを作って動かす施設にも、エネルギーが必要です。その分は、さっきの2.05 MJに含まれていません。施設全体では、もっと大きな投入が必要になります。4

荷物の配達にたとえるなら、「玄関に届いた分」と「発送から配達までに使った分」は、違う数字ですよね。

今回の2.05 MJは、標的という玄関に届いたレーザーの量。施設全体が使った量ではない、ということです。

どこを入口として数えるかで、「プラス」の意味が変わるんですね。

じゃあ、成果はたいしたことないの?

それも違います。

研究が確かめたかった一つの壁は、標的に届くレーザーより多くのエネルギーを、核融合から引き出せるかという点です。そこを越えた成果として発表されました。1

一方、家に電気を届けるには、施設全体の収支や、発電までの仕組みも必要です。4

「燃料の実験で大きな一歩があった」と「発電所として完成した」。この二つを分けると、どこまで来たのかが見えます。

発電所にするなら、次は何が必要?

たとえば、一度うまくいった実験を、何度も繰り返せるか。

レーザーを、もっと効率よく動かせるか。

実験に使う標的を、必要な数だけ作れるか。

LLNLの解説でも、こうした点がエネルギー利用に向けた課題として挙げられています。4

発電所には、「一回できた」に加えて、「必要なときに続けられる」が求められるわけですね。

観測所の「ほぇ〜ポイント」

大きなニュースは、「どこを数えた?」でぐっと分かる。難しい式を覚えなくても、エネルギーの入口と出口を指で追うだけで、成果の意味が見えてきます。実験が越えた壁を喜びながら、次の仕事も知る。核融合のニュースを楽しむ、ちょっとしたコツです。

次に新記録を見たら、数字の大きさに加えて、何と何を比べているかにも注目してみてください。

OBSERVATION / 今日分かったこと

今回の観測結果

標的での実験

対象:レーザー核融合のターゲット利得

燃料を入れた標的に届くレーザーと核融合出力を比較した実験です。施設全体で正味の電力を生む発電所を実証した成果ではありません。

観測所の編集上の整理です。実現確率や完成予定年を示す指標ではありません。
SOURCES / 確かめる

原論文・出典

気になった研究は、ここからたどれます。

いつの、どんな研究?米NIFの2022年12月5日の実験と、2023〜2024年のLLNLによる解説を扱います。以後の最高記録や発電計画の最新状況は扱いません。
  1. 米エネルギー省|DOE National Laboratory Makes History by Achieving Fusion Ignition

    2022年の公式発表本文を確認。12月5日のレーザー入力2.05 MJと核融合出力3.15 MJを参照。

  2. LLNL|LLNL’s breakthrough ignition experiment highlighted in Physical Review Letters

    2024年2月5日。研究機関の解説本文を確認。燃料カプセルを入れた標的(ターゲット)へのレーザー入力と核融合出力の比較を参照。

  3. Abu-Shawareb et al.|Achievement of Target Gain Larger than Unity in an Inertial Fusion Experiment

    Physical Review Letters、2024年2月5日。出版社の要旨・書誌を確認。要旨は出力を3.1 MJと表記。本記事の3.15 MJはDOEとLLNLの公式発表値。原論文本文は未確認。

  4. LLNL|IAEA Webinar Explores NIF’s Ignition and Energy Gain Breakthroughs

    2023年3月6日。本文のProspects for Fusion Energyを確認。電力系統からの投入、レーザー効率、標的の製造と繰り返し運転、熱から発電する工程の課題を参照。

更新記録

— 4コマを追加。同日、比較の入口を「燃料」から「燃料を入れた標的」に訂正。本文・漫画・図解をそろえ、施設の電力と発電の課題に対応する出典を追加。

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