未来技術観測所FUTURE TECHNOLOGY OBSERVATORY
OBSERVATION NOTE / 人間の未来

眠っているあいだに宇宙へ? 人工冬眠は「ぐっすり眠る」と何が違う?

宇宙船で眠って、起きたら目的地。あのベッドを作るには、ただ深く眠るだけでは足りないようです。鍵になるのは、体の「省エネ」でした。

30 SECONDS / まず、ここだけ

目指すのは、長い居眠り? 研究が注目するのは、体を「省エネ」にすること。

  • 2023年、超音波を使って動物の体温などを下げる研究が発表された。
  • マウスでは、体温を見ながら約24時間、低体温を保つ実験も。
  • 人が何年も眠って旅をするには、まだ確かめることがたくさんある。
この記事の目次
  1. 長く寝るだけで、宇宙旅行はできる?
  2. まず、体の中の「働き」に注目してみよう
  3. どうやって、そんな状態にしたの?
  4. 下げるだけじゃなく、保つことも大事なの?
  5. じゃあ、人も一日眠れると分かった?
  6. 体を凍らせて、あとで解凍する話?
  7. 観測所の「ほぇ〜ポイント」
  8. 今回の観測結果
  9. 原論文・出典

「目的地まで何年もかかります。でも、寝ていて大丈夫です」

宇宙船でそう言われたら、ちょっと助かりますよね。長い移動で退屈しなくて済むし、起きたら知らない星が窓の外にある。

でも、ここで疑問です。

長く眠ることと、冬眠することって、同じなのでしょうか?

長く寝るだけで、宇宙旅行はできる?

ソファでひと眠りするのと、SFの人工冬眠。二人と一緒に、その違いを見てみましょう。

眠りと省エネを見比べよう
オレンジの人がソファで毛布をかけて休み、青い人が首をかしげる。
1 / とにかく、長く眠れば?

青い人「ぐっすり眠るのと、冬眠するのって同じ?」

SFでは寝ている姿が目立ちます。でも人工冬眠につながる研究では、体の中のエネルギーの使い方にも注目します。

二人が電池と葉の記号を表示したスマホを見る。体とは接続されていない。
2 / 体にも、省エネモード?

オレンジの人「画面を暗くするだけじゃなく、中の働きも抑える感じ?」

スマホの省電力モードを、入口のたとえにしてみましょう。研究で調べるのは、体温や代謝が下がる状態です。

二人が研究用の容器にいる小さなマウスを観察する。そばに温度計の記号。
3 / 動物では、何を測った?

青い人「眠って見えるかだけでなく、体温や酸素の使い方も見るんだ。」

2023年の研究では、脳の特定の場所に超音波を当てたマウスで、体温と酸素消費の低下が報告されました。

マウスの容器のそばで、二人が時計と記録用の資料を見ている。
4 / その状態を、保てる?

オレンジの人「下げたあとも、様子を見続けるんだね。」

マウスでは、体温を測って刺激を調整し、約24時間、低体温を保つ実験も。人の長期冬眠は、この研究で確かめた範囲の先です。

スマホは省エネのたとえです。人物・動物・装置はAI生成の説明用イラストで、実験の再現ではありません。2023年の研究対象はマウスとラットで、約24時間の低体温の維持はマウスの結果です。 [1]

まず、体の中の「働き」に注目してみよう

2コマ目のスマホを思い出してください。画面の明るさだけでなく、中で使うエネルギーが気になるところです。

私たちの体では、栄養からエネルギーを得たり、必要な物を作ったりする働きが続いています。これをまとめて「代謝」といいます。

人工冬眠につながる研究で注目されるのは、この働きを抑えた状態です。

イメージするなら、スマホの省電力モード。体とスマホは仕組みが違いますが、ただ画面を暗くするだけでなく、中で使うエネルギーにも目を向ける、というたとえです。

2023年の研究も、体温や代謝が下がる、トーパーに似た状態を動物で調べました。1

どうやって、そんな状態にしたの?

使ったのは、超音波です。人の耳には聞こえない、高い音の一種ですね。

研究者は、脳の中で体温の調節などに関わる「視索前野」という場所に超音波を当てました。するとマウスでは、体温や酸素の消費が下がることが報告されました。1

「眠っていそうに見える」だけでなく、体がどれだけ酸素を使っているかも測る。体の中の省エネを確かめようとしたわけです。

動物の脳の特定部位に超音波を当て、体温や代謝を測り、刺激を調整する実験の流れ。
研究手順を簡略化した模式図。状態の維持に関する記述はマウスの結果です。 図の根拠

下げるだけじゃなく、保つことも大事なの?

そうなんです。目的の状態に入れても、そのまま安定して過ごせるとは限りません。

この研究ではマウスの体温を測り、その値に合わせて超音波の刺激を調整しました。そうして、約24時間にわたって低体温を維持する実験も行っています。1

「下げる」と「保つ」を、別々に考えているんですね。

なお、ラットでも体温低下が報告されていますが、約24時間の低体温の維持はマウスで調べた結果です。1

じゃあ、人も一日眠れると分かった?

この実験の対象は、マウスとラットです。人への効果や安全性を確かめた結果ではありません。1

宇宙船のベッドを考えるなら、知りたいことはまだあります。

その人は、どれくらいの期間その状態で過ごせるのか。体の働きに問題は起きないのか。起きたあと、元の生活に戻れるのか。

体温が下がることと、長い旅を安全に終えられることのあいだには、いくつもの問いがあるわけです。

体を凍らせて、あとで解凍する話?

それとも違います。この研究は、動物を凍結して保存し、解凍して戻した実験ではありません。1

「ぐっすり眠る」「体温や代謝を下げる」「体を凍らせて保存する」。どれもSFの長い眠りと結びつきやすい言葉ですが、調べていることはそれぞれ違います。

何を下げ、何を測った研究なのか。そこが分かると、人工冬眠のニュースも読みやすくなります。

観測所の「ほぇ〜ポイント」

SFのベッドには、寝心地より先に解く問題がある。眠る人の姿を想像しがちですが、研究では、その体の中で何が起きているかを細かく見ています。状態に入る、保つ、元に戻る。あの一台のベッドを作るにも、こんなにたくさんの研究が必要になるんですね。

眠って旅をした先では、息をする空気も必要です。次は、火星で酸素を作った実験をのぞいてみましょう。

OBSERVATION / 今日分かったこと

今回の観測結果

動物での実験

対象:超音波で誘導する低体温・低代謝状態

マウスとラットの研究です。人を長期間眠らせて安全に起こす技術の実証ではありません。

観測所の編集上の整理です。実現確率や完成予定年を示す指標ではありません。
SOURCES / 確かめる

原論文・出典

気になった研究は、ここからたどれます。

いつの、どんな研究?2023年の超音波によるマウス・ラットの研究を紹介します。人への効果や安全性を確かめた研究ではありません。
  1. Yang et al.|Induction of a torpor-like hypothermic and hypometabolic state in rodents by ultrasound

    Nature Metabolism、2023年5月25日。公開本文の要旨・結果を確認。動物種、体温・酸素消費、約24時間の制御を参照。

更新記録

— 4コマを追加。同日、原論文の結果と再照合し、約24時間の低体温の維持はマウスの低体温を測った結果だと明確化。

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