未来技術観測所FUTURE TECHNOLOGY OBSERVATORY
OBSERVATION NOTE / 時間と空間

ワープって、宇宙船を速くする話じゃないの? 空間を変える旅のアイデア

遠い星へ行くなら、もっと速いエンジンを。でも、ワープは少し違うことを考えます。「船のまわりの空間を変えたら?」という大胆な発想です。

30 SECONDS / まず、ここだけ

船を速くするより、まわりの空間を変えたら? それがワープの発想。

  • 船の前の空間を縮め、後ろを広げる、という数式上の提案がある。
  • どんな時空なら成り立つかを、研究者が調べている。
  • 実際に作るための材料や、動かす仕組みには大きな課題が残る。
この記事の目次
  1. 宇宙船を速くする? それとも、道を変える?
  2. 空間を変えるって、どういうこと?
  3. えっ、それを数式で書けるの?
  4. じゃあ、ふつうのエネルギーでできる案はない?
  5. 形が作れたら、勝手に進むの?
  6. 今度ニュースを見たら、どこに注目する?
  7. 観測所の「ほぇ〜ポイント」
  8. 今回の観測結果
  9. 原論文・出典

宇宙船の窓の外で、星がすっと線になる。次の瞬間、別の星に到着。

SFのワープって、気持ちいいですよね。あれが使えたら、宇宙旅行の「移動時間」が一気に短くなりそうです。

では、ものすごく強力なエンジンを作ればよいのでしょうか。

実は、ここで紹介するワープの提案は、もう少し変わっています。

船の速さだけでなく、まわりの空間を変えることを考えるんです。 1

宇宙船を速くする? それとも、道を変える?

二人が宇宙船の模型を前に、遠い星へ行く方法を考えています。

船の模型で、旅を考えてみよう
オレンジの人が宇宙船の模型を指し、青い人と遠い星への旅を考える。
1 / もっと速い船があれば?

オレンジの人「強力なエンジンで、一気に行けないかな!」

遠い星へ行くなら、まず船を速くしたくなりますよね。ワープの提案は、船を取り巻く空間にも目を向けます。

二人が紙の帯と宇宙船の模型を使い、道の形を変える発想を考える。
2 / 道のほうも、変えられる?

青い人「船のまわりの空間を変える、という考え方もあるんだ。」

紙を縮めるように想像してみます。Alcubierreの提案では、船の前を縮め、後ろを広げる時空を数式で考えました。

二人が宇宙船の記号を描いた紙を見て、疑問符と身振りで考え込む。
3 / 形が描けた。その次は?

オレンジの人「でも、その形を何で作るの?」

数式に書けることと、材料を用意できることは別の問いです。この提案には、ふつうの物質では満たせない条件があります。

宇宙船の模型と未完成の台を前に、二人が資料を見ながら相談する。
4 / どうやって動かす?

青い人「材料のほかに、動かす仕組みも要るんだね。」

2021年の研究でも、推進力は別途必要だと説明されています。ここで紹介するのは、エンジンの完成報告ではありません。

紙と模型は発想のたとえで、空間の実際の形やワープ装置を表してはいません。ここで扱うのは1994年・2021年の理論研究です。 [1] [2]

空間を変えるって、どういうこと?

2コマ目では紙を動かしました。では、研究が考える「空間を変える」は、どんな発想なのでしょう。

1994年、物理学者のAlcubierreは、船の前の空間を縮め、後ろを広げる時空を提案しました。

遠くから見た船の移動と、船がすぐ近くの空間に対して動く速さを、分けて考えるのがポイントです。1

たとえば地図を見るとき、私たちは道の長さが変わらないと思っていますよね。この提案は、その「動かない舞台」だと思っていた空間そのものに目を向けます。

船の領域の後ろを広げ、前を縮める時空の概念。その作り方や推進力は別の課題。
Alcubierre型の発想を示す模式図。線の間隔は空間の変形を表すたとえで、実測値や装置の設計図ではありません。 図の根拠

もちろん、地図を縮めれば現実の目的地に近づく、という意味ではありません。空間の変形を数式で考える、という話です。

えっ、それを数式で書けるの?

書ける時空の形が提案されています。使うのは、重力を時間と空間の曲がり方で説明する「一般相対性理論」です。1

ただ、ここで一つ、次の問いが出てきます。

その形を作るには、何が必要なの?

橋の形を絵に描けても、支えられる材料がなければ建てられませんよね。ワープにも、似たところがあります。

Alcubierreの提案では、ふつうの物質では満たせない性質を持つ物質が必要になります。数式で示した形と、実際に作れる装置のあいだに、材料の問題があるわけです。1

じゃあ、ふつうのエネルギーでできる案はない?

その条件を考え直す研究もあります。

2021年のBobrickとMartireの研究では、正のエネルギーで表せる、光より遅いワープの形などが検討されました。2

「おっ、では光より速い旅も?」と思いますが、ここは速度の条件に注目です。光より遅い場合に成り立つ話を、そのまま光より速い場合へ持っていくことはできません。

形が作れたら、勝手に進むの?

これも気になるところです。論文は、ワープドライブにも推進力が必要だと説明しています。2

つまり、研究の問いは一つではありません。

  • どんな時空の形なら、数式で成り立つ?
  • それを作る材料やエネルギーは用意できる?
  • できたものを、どうやって動かす?

「ワープの形を考えた」という一歩を、「エンジンが完成した」と受け取ると、この先の仕事がごっそり抜けてしまいます。

今度ニュースを見たら、どこに注目する?

「ワープに必要なエネルギーが減った」という見出しを見たら、まずはどの速度で、何と比べたのかを見てみてください。

それから、数式で調べたのか、装置を作って測ったのか。

ここで紹介した資料は、時空の形や条件を考える理論研究です。宇宙船をワープさせた飛行実験ではありません。

観測所の「ほぇ〜ポイント」

目的地までの「道」も、考え直していい。遠くへ行くなら、もっと速く走ろう。ふつうはそう考えますよね。ワープ研究の面白さは、そこで「空間のほうは変えられないの?」と問い直すこと。まだ乗れる船はなくても、発想だけで宇宙の見え方が少し変わります。

もう一つの近道のアイデアは、ワームホール。二つを並べると、SFの旅にもいろいろな考え方があると分かります。

OBSERVATION / 今日分かったこと

今回の観測結果

理論上の提案

対象:光より速いワープ航行

扱う資料は時空の構造を調べる理論研究です。宇宙船を運ぶエンジンの実験成果ではありません。

観測所の編集上の整理です。実現確率や完成予定年を示す指標ではありません。
SOURCES / 確かめる

原論文・出典

気になった研究は、ここからたどれます。

いつの、どんな研究?1994年のAlcubierreの提案と、2021年のBobrick・Martireの理論研究を扱います。以後の提案を網羅した記事ではありません。
  1. Alcubierre|The warp drive: hyper-fast travel within general relativity

    原論文は1994年。公開PDFの要旨・冒頭を確認。時空の変形と特殊な物質の必要性を参照。arXivへの登録年は2000年。

  2. Bobrick & Martire|Introducing Physical Warp Drives

    2021年の著者公開本文を確認。正のエネルギーを使う光速未満の解と、推進力が別途必要という説明を参照。

更新記録

— 4コマを追加。宇宙船の模型と紙のたとえから、時空の形・材料・推進力の三つの問いへつなげた。

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