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「タイムマシンの研究」と聞いたら、やっぱり知りたいのは、過去への入口をどうつくるのかですよね。
実は論文には、ワームホールを時間旅行へ使う提案があります。そこへ、ホーキングが論じた「自然法則がそれを妨げるのでは」という予想が続きます。さらに別の研究では、回転するブラックホールへ落ちる物体を、鋼やサファイアの性質を使って計算しています。1 2 6
「窓の心配をするところまで、考えているの?」
今回は、その面白さを論文からたどります。時計の進み方の違いを測った研究はこちらの記事に譲って、過去への道と、その道を阻むものを見ていきましょう。
動画で、研究の流れをたどる
同じテーマの本編です。読んで気になったところは、この下の解説と原論文でも確かめられます。
まずは4コマ。入口の先には、何がある?

オレンジの人「向こうへ近道するだけじゃなくて、出発前にも戻れるの?」
通れるワームホールを仮定し、二つの口に時間のずれを持たせる。そんな条件付きの提案があります。 [1]

青い人「扉があっても、枠ごと変わったら通れるかな?」
ホーキングは量子の影響が時空を変え、過去への道の成立を妨げる可能性を論じました。扉は、その発想を考えるたとえです。 [2]

オレンジの人「ブランコって、タイミングを合わせて押すと大きく揺れるよね。」
別の研究は、ブラックホールへ落ちる物体の変形や共振を計算しています。ここではブランコで、共振の感覚をつかみます。 [6]

青い人「窓の丈夫さに加えて、周りの時空がどうなるかも調べたいね。」
材料の変形と、時空そのものの変化は別の問い。量子効果を加えて内部を調べる研究へ、話が続きます。 [7]
人物と場面はAI生成の説明用イラストです。入口はSFの想像図、扉・ブランコ・窓とシートは身近なたとえで、実際の実験装置や時空の形ではありません。四つの場面は一つの実験の手順ではなく、異なる研究の問いをつないでいます。
1988年:ワームホールを、過去への道にする
ワームホールは、離れた時空をつなぐ通路として考えられます。山を越える道に対するトンネルのように、「遠回りをせずに向こうへ行く」と想像すると入りやすいですね。ただ、近いだけでは過去へ戻れません。
モリス、ソーン、ユルトセヴェルの1988年の論文は、通り抜けられるワームホールをつくり、維持できるなら、それを時間旅行へ使えると論じました。1
鍵になるのは、二つの口の時間のずれです。ワームホールを通る道と、外の空間を進む道で、つながる時刻が違う状況を考えます。3
数式の代わりに、仮の時刻を置いてみましょう。
- 正午に、入口Aへ入る。
- 通路の先が、出口Bの午前11時につながっているとする。
- 外の道を10分で戻れるなら、Aへの到着は11時10分。自分が入る50分前です。
これは時計の表示だけをずらす話ではなく、外の世界の早い時刻の出来事につながる、という仮定です。数字は仕組みを考えるための独自の例で、測定結果ではありません。
本人の時計は前へ進み続けても、通る経路が自分の過去へつながる。物理学でいう閉じた時間的曲線の発想です。5
「それなら、あとは入口をつくればいい?」
まさに、その前提が難しいところです。橋の線を設計図に描けても、実際に架けて支えるには材料が要ります。ワームホールも、必要な物質やエネルギーの条件を自然法則の範囲で満たし、通路を保てるかが問題になります。1
1992年:ホーキングは、何が邪魔すると考えた?
ホーキングは、過去へ戻る経路ができそうになると、量子場のエネルギーの影響が大きくなり、時空の形を変えてしまうのではないか、と論じました。これが年代記保護予想につながる考えです。2
4コマの木の扉を思い出してください。通れる形の扉を考えても、土台や枠がゆがめば、想定したままでは開けられません。
量子場も、与えられた時空の上で振る舞うだけでなく、そのエネルギーが重力を通して時空へ影響します。この作用を「反作用」と呼びます。扉のたとえは、その相互作用を思い浮かべるためのものです。
つまり、装置の部品を増やして解決する前に、過去への道を成立させようとした時点で、道そのものが変わるかもしれない。 そこに踏み込んだ議論なんですね。
ただし、これはあらゆる状況の時間旅行を一つ残らず否定した証明ではありません。論文の条件と、そこで使える計算法を確かめる必要があります。2 5
1997年:組み合わせを変えたら? 計算できなくなったら?
そこで出てくるのが、ヴィサーの「ローマン・リング」です。複数のワームホールを輪のように配置し、一つずつを見ると時間旅行に近くなくても、全体ではその境界に近づく状況を考えました。3
模型の線路なら、一つの部品だけで一周はできません。でも、組み合わせた全体には、部品だけを眺めても分からない経路ができます。これは「組み合わせを調べる」という発想のたとえです。
このモデルでは、反作用が大きくなる前に、使っている近似計算の信頼できる範囲を使い切る場合が示されます。壊れないタイムマシンを完成させた、という結果ではありません。 計算が通用しなくなる先を、同じ方法で判断できないのです。3
同じ1997年に掲載されたケイ、ラジコフスキ、ウォルドの研究は、特定の種類の時空の境界で、量子場のエネルギーなどを通常の方法で定義できなくなる問題を示しました。対象には数学的な条件があり、すべての時空にそのまま当てはめる結果ではありません。4
ここで大切なのは、「計算したら危険な数値になった」と「そもそもその計算を使えるのか」が違うこと。地図が途中から白紙でも、その先に道があるとも、ないとも言えません。こうした限界まで調べることも、タイムマシン研究の一部なのです。
ブラックホールは、別の入口になる?
ワームホールとは別に、回転するブラックホールを記述するカー時空にも、時間旅行に関わる数学的な構造が現れます。
理想化した時空を奥まで延長すると、閉じた時間的曲線を持つ領域が出てくるのです。ただし、その図を現実の旅行地図として使うには、内側の境界が周囲からのわずかな影響で変わってしまう問題などがあります。5
外側の「事象の地平面」は、外へ光で知らせることもできなくなる境界。そのさらに内側に、理想化したカー時空では「内側地平面」が現れます。これから紹介する研究が調べるのは、その内側の境界へ近づくときの物体や時空です。
ブラックホールへ入れば、そのまま過去に出られると分かったわけではありません。 奥にどんな構造が保たれるかを、別に確かめなければならないんですね。5
2018年:宇宙船の窓は、どれくらい変形する?
マラリーらの研究は、回転するブラックホールへ落ちる物体を、外から力を受けて伸び縮みする「振動子」として計算しました。例に使ったのは、鋼の立方体と、宇宙船の窓を想定したサファイアの板です。6
物体の手前と奥で引っ張られ方が違うと、形は変わります。さらに、力の変化する速さと、物体が揺れやすい速さが合うと、共振が起こります。
ブランコを押すタイミングが合うと、大きく揺れますよね。物体でも、単に力が強いかに加え、どんなタイミングで力を受けるかが効くわけです。この計算では、内側地平面に着く前の共振による変形も調べています。6
限られたモデルでは、境界へ近づいても物体の変形は有限にとどまりました。しかし、有限という言葉は「壊れない」を意味しません。少し曲げただけで窓が割れることもあるように、材料の限界を超える有限の変形はあり得ます。
また、この研究は孤立したブラックホールに特定の重力的な乱れを加えた古典的なモデルです。量子効果などは含めず、境界の先を安全に通過して帰れるかも示していません。6
2024年:窓の丈夫さに加えて、周りの時空も変わる
マクメイケンの研究が取り上げたのは、量子場が回転ブラックホールの内部に及ぼす反作用です。特定の量子場の状態を使い、内側地平面付近のエネルギーの影響を計算しました。7
その近似解析は、内部が滑らかな通路として保たれるよりも、激しく変化する特異点へ向かうことを示唆します。ここでいう特異点は、時空の曲がりなどが極端になり、通常の記述が行き詰まる場所です。
窓自体を丈夫にしても、窓が置かれている足場が変われば、移動の条件は変わります。4コマの窓とシートは、この二つの問いを分けるためのたとえです。
これは2018年の計算を実験で否定した話ではありません。物体がどれくらい変形するかと、量子効果で周りの時空がどう変わるか。 扱う対象と仮定が違う研究です。2024年の解析も、完成した量子重力理論で全過程を解いたものではありません。7
つまり、どこまで来ていて、次に何が必要?
今回の論文を並べると、「タイムマシンをつくったか」という一問の中に、いくつもの研究課題があると分かります。
| 調べている問い | 今回の研究で扱われたこと | さらに確かめたいこと |
|---|---|---|
| 過去へ戻る道を考えられる? | 通れるワームホールなどを前提に、経路を理論で考える。 | 必要な時空を実際につくり、維持できるか。 |
| その道は保たれる? | 量子場の反作用や、計算の成り立つ条件を調べる。 | 近似の限界を越えたところで、何が起きるか。 |
| 物体は通れる? | 限定したモデルで、ブラックホール内の変形を計算する。 | より多くの影響、材料の破損、境界の先まで扱えるか。 |
この表は、取り上げた論文から観測所が整理した課題です。完成までの工程表や、実現する年の予測ではありません。1 3 4 6 7
量子コンピューターで「ワームホール」と呼ばれる動きを調べた実験は、こちらの記事で紹介しています。今回の過去への通路とは、何を再現して何を測ったのかが違います。あわせて読むと、その違いもつながって見えてきます。